予防処置

8.5.3 予防処置

企業は、潜在的に起こりうる不適合が発生することを防止するためにその原因を除去する処置を決めること。予防処置は潜在的に起こりうる問題が与える影響にふさわしいものであること。

次の事項に関する要求事項を規定するために文書化された手順を確立すること。

  • 潜在的に起こりうる不適合およびその原因を特定する。

  • 不適合の発生を予防するための処置の必要性を評価する。

  • 必要な処置を決定し、実施する。

  • 講じた処置の結果を記録する。かつ、

  • 予防処置において実施した活動をレビューする。


現時点では表面化していないが潜在的に起こりうる問題は企業活動には絶えず付き纏っている。食品関係の問題など思わぬ出来事で事業業績に過大な悪影響を与えた事件は、日本でも過去に発生している。これらの諸問題が予測可能であったかは不確かであるが、潜在的に起こりうる問題に絶えず目を向けることは企業を運営する上で欠かせない。国際規格は、このような潜在的に起こりうる不適合に関する対処方法を定めることを求めている。ただし、この要求内容は必ずしも完全ではなく実用面での効果にはやや疑問が残る。効果のある活用は企業自身が工夫するしかない。しかも、製品の構成や組織が単純な中小企業では、リスク管理の必要性は低いのが一般であり、この予防処置の実用性は必ずしも高いとは思えない。


潜在的に起こりうる不適合に対する処置に関する手順は、是正処置の手順をそのまま適用できる。国際規格の要求事項は、是正処置の不適合を潜在的に起こりうる不適合に置き換えたに等しいからである。したがって、是正処置要求書が予防処置要求書にも使えるようにすればよいし、フロー図も共用できる。あえて、別の書式や手順を定める必要はない。


手順や書式よりも重要なことは、予防処置の実務面での運用である。たとえば、以下のようなデータの分析を通じて得られた結果から潜在的な問題発生を予測できる場合がある。

  • 設備管理記録の記載内容(部品の交換頻度など)
  • 設備能力の設計限界と実使用状況と停止時間の傾向(故障の発生)
  • 社員の残業時間と遅刻回数(ストレスによる疾病の予測)
  • 売上げ金額と顧客離反数との関係(製品やサービスの質的な問題)
  • 製品やサービスの不具合に対する顧客の反応(顧客の再帰不可の可能性)
  • 市場調査結果(製品の機能不足やデザイン・サービスの欠点)

その他、業務や作業を通じて感じ取っている社員の心配や懸念を収集することも有効である場合がある。当面は問題が発生しないように機械の故障を修理したが時間的な制限があり本格的に修理できなかったが問題が将来発生する可能性があると感じている社員がいることがあるからだ。あるいは、新製品の販売にはなんとか成功したが、顧客の反応から販売担当者は製品やサービスの質に不安を抱いたなどもある。社内コミュニケーションの手段を活用すれば、このような懸念を吸い上げることができよう。


種々の手段で収集された情報から予防処置を必要とするのかどうかの評価を充分に行う。情報は不正確であることが多々ある。必ずしも潜在的な不適合が隠されているのではなく単なる危惧にすぎないこともありうるからである。予防処置に関する案件があるならば、マネジメント・レビューの議題となる。マネジメント・レビューを通じて人的や財務的資源を必要とする予防処置を実行する意思決定は経営者によって行われることが望まれる。もしも予防処置が決定され実行されたなら、その内容や効果は記録として維持管理する。(拙著「やさしくわかるISO9001」(技術評論社 2003年発刊)の原稿を加筆修正)